はじめに
「シリコン塗料は熱に強い」というイメージをお持ちの方は多いでしょう。確かにシリコンは耐熱性に優れた素材ですが、実は「シリコン塗料」と一括りに言っても、その性能には大きな幅があります。家庭の外壁塗装で使われるものと、工場などの特殊な環境で使われるものでは、全くの別物と言っていいほど性能が異なります。
この記事では、外壁塗装で一般的に使われるシリコン塗料の本当の耐熱性能と、なぜ多くの人がイメージするほどの超高温には耐えられないのか、その理由を専門家の視点から分かりやすく解説します。
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1. 驚きの事実:外壁塗装用のシリコン塗料が耐えられる「現実的な」温度
結論から言うと、外壁塗装に一般的に使われる建築用シリコン塗料が想定している使用温度の範囲は**「-20℃~+60~80℃」**程度です。
夏の強い日差しによって、外壁の表面温度が60~70℃に達することは珍しくありません。しかし、建築用のシリコン塗料はこの温度範囲内であれば、塗膜の劣化や変色はほとんど見られず、建物を保護する性能を十分に維持できます。
つまり、一般的な住宅や建物の環境下においては、この耐熱性能で全く問題ないと言えます。
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2. なぜ意外と低い?「純粋なシリコン」との違い
では、なぜ建築用シリコン塗料の耐熱性は、多くの人がイメージする「シリコン」よりも低いのでしょうか。その理由は、塗料に含まれる樹脂の成分にあります。
「純粋なシリコーン樹脂(ピュアシリコーン樹脂)」そのものは非常に熱に強く、約200℃まで変色や熱分解がほとんど起こりません。製品によっては200~250℃の温度域でも使用可能です。
しかし、建築用のシリコン塗料は「変性シリコーン樹脂」と呼ばれ、シリコーン樹脂にアクリル樹脂などの他の有機樹脂を混合して作られています。これは性能のトレードオフ(trade-off)であり、この「混合」によって、紫外線への耐性(耐候性)や雨水への強さ(耐水性)、そして塗膜の艶を長持ちさせる性能(耐光沢保持性)といった、外壁に必要な多様な性能をバランス良く高めているのです。その代償として、純粋なシリコーン樹脂が持つほどの高い耐熱性は有していません。
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3. プロの世界:工業用の「耐熱シリコン塗料」という別次元の存在
建築用とは全く異なる世界に、工業用の「耐熱シリコン塗料」が存在します。これこそが「熱に強いシリコン」のイメージに近い、特殊な塗料です。
これらの塗料は、特殊な耐熱顔料を配合することによって、250℃以上、製品によっては600℃もの高温に耐えることができます。
主な用途は、自動車のエンジンマフラーや工場の煙突、プラントの配管といった、住宅の外壁とは比較にならないほどの高温に晒される構造物です。同じ「シリコン塗料」という名前でも、建築用とは全く異なる目的で作られた、別次元の製品なのです。
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4. 結論:あなたの家にはどのシリコン塗料が必要か
ここまでの情報を踏まえると、シリコン塗料を選ぶ際の結論は非常にシンプルです。
- 一般住宅や商業ビル 通常の建物の外壁であれば、-20℃~+80℃程度の温度に対応する「建築用シリコン塗料」で性能は十分です。過剰な耐熱性を求める必要は全くありません。
- 特殊な高温環境 もし、ご自宅や所有する建物にボイラーの排気管が隣接しているなど、常に100℃を超えるような特殊な高温環境がある場合は、建築用塗料ではなく、その用途に特化した専用の「耐熱塗料」の選定が必須です。
- ここで専門家が重視するのが、「想定される最大壁面温度+安全マージン」という考え方です。例えば、壁面が最大70℃に達する可能性がある場合、80℃対応の塗料でも理論上は問題ありませんが、長期的な耐久性を考慮し、100℃~120℃程度の耐熱性を持つ塗料を選ぶことで、より確実な安全マージンを確保できます。
重要なのは、単に基準値を満たすだけでなく、「用途に応じた適切な使い分け」と「長期的な信頼性を担保する安全マージン」を考慮することです。
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おわりに
今回のポイントをまとめると、「外壁塗装用のシリコン塗料は約80℃までの耐熱性で十分な性能を発揮し、それ以上の高温環境には工業用の特殊な耐熱塗料が存在する」ということです。
「シリコン」という一つの言葉でも、使われる場所や目的によって中身が全く異なるというのは、興味深い事実ではないでしょうか。もしかすると、あなたの身の回りにある他の製品も、実は知らないだけで「一般用」と「プロ用」で全く違う性能を持っているかもしれませんね。
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